***研究協議会***
「環境資産活用の多面的な展開方向」
−地域自立への挑戦−
8月29日(日)午後1時〜5時
北海道大学 高等教育機能開発総合センター
司会 :中島熙八郎(熊本県立大学)
副司会:神吉紀世子(和歌山大学)
書記 :齋藤雪彦 (東京農工大学)
□主旨説明(伊藤庸一:日本工業大学/農村計画委員会委員長)
昨年は、環境資産の概念を整理し、その発掘の重要性について議論が交わされたが、今回は、地域自立への挑戦を、環境資産の活用の見方、活用手法の多様性から議論を行いたい。言い換えると、主体を中心とした議論から、その活動と価値判断から見えて来る新しい地域構造、また主体自身の組織の多様化に注目したい。さらに、自然と生業の関係、経済的基準では計れない文化としての存在といった視点も重要となってくるだろう。
□主題解説
ポストグローバル化時代の農山漁村
三橋伸夫(宇都宮大学)
グローバル化による農山漁村地域の破壊が起きていること、逆に同化、均質化によって歴史、文化など固有のローカルな同地域の価値が注目されつつあることという時代の状況にあると言える。
こうした中で多様な同地域における活動を以下の5種の項目に整理した。
@持続的地域形成のための自然環境保全・創造
A農業の多角化を基礎とした経済的自立とむらづくり
B都市農村交流・農村観光が契機となる地域アイデンティテイの自覚
Cコミュニティに基礎をおいた自治の追求
D新しいアクターとしてのNPOの台頭である。すなわち、環境資産の認識・共有の過程で地域のアイデンティが自覚され、その経済的活動に組み込まれた活用過程において、新たな組織がコミュニティ自治を基礎としながら、地域外のNPOなどと連携が築かれるということである。
しりべつリバーネットの活動と課題
牧野純二(NPO法人しりべつリバーネット)
ニセコ町の居住者を中心として、流域自治を目指し、水環境を環境資産として活用することを目的として始まった活動である。具体的にはせせらぎ祭り、植林、川での活動に関わる指導者の育成、魚道の設置を要望する活動、流域の歴史資料の作成と流布、清掃活動等、多面的に展開している。さらに今後の展開としては、川のオーバーユースに対応するために川の適正な利用ルールをつくり、これを条例として制定することを目標としている。
すなわち、流域の人々が交流、連携、意見を交わしながら流域社会を作り上げ、住民自治から流域自治へと変えて行きたい。
下川町の森林クラスター創造の取り組み
春日隆司(下川町ふるさと開発振興公社)
下川町は林業を中心とした取り組みを行ってきた。成長量だけを生産物として得ることで循環型林業を目指してきたが、災害を契機として、間伐材の木炭、木酢液、木の枝葉を利用した芳香剤、入浴剤などを開発するようになった。
すなわち林業を中心として様々な産業のクラスター(房)を形成しようとする試みが始まった。今後は気候変動枠組み条約で議論された二酸化炭素のコントロールというフレームにおいて、二酸化炭素を吸収する権利を市場に出すことを現在検討中である。
グリーンツーリズムの振興と都市農村交流
中野一成(鹿追町ファームイン研究会)
入植3代目の農家だが、「大草原の小さな家」という農家レストランを始め、ファームインを行うようにもなった。現在、道内には30−40件の農家が経営する宿泊施設があり、農家レストランも30軒にも上るようになった。ファームインが農村地域の玄関であり、アンテナショップであり、案内所であるという位置づけになってきた。
また近年では外来者が定住するようになり、農村地域に明るさをもたらしていると言える。また、「全道グリーンツーリズム大会」を行い、北海道におけるグリーンツーリズムのネットワークも広がってきた。
農山漁村におけるエコミュージアム運営の可能性
大原一興(横浜国立大学)
エコミュージアムとは博物館の発展形態であり、地域住民のための社会教育施設であり地域になにかをもたらすのが主目的でなく、観光客に迎合するものではない。 すなわち、地域住民が学びあい、教えあい、環境資産を認識し、向き合っていく過程こそが重要なのである。
従って、本来の主旨に沿うものであったとしても市場価値を持つかどうかは議論が分かれるところである。 「侵略された歴史の記憶」や公害による「汚染土」といった負の環境資産さえもアイデンティティ形成に資するエコミュージアムとなりうるものである。また、ナショナリズムの台頭に対する多様な個性の存在、共生といったテーマ、高齢者、若者、失業者をどのように地域コミュニティに取り込むかといったテーマのように、エコミュージアムは環境資産を使って現代社会を考えようとする行為であると言える。
□討論:
一つ目の論点は資源と資産の関係性についてであった。
生業としての林業の展開の中で、資源が資産化したものであり、そのことによってより自己実現を果たす変わるプロセスが出てきたが、基本的には生業の過程で出てくるものであるとの意見があり(春日)、これを受け、資産から資源へ戻るということもあり、先行きの見通しがあって資産化するのは難しいとの意見もあった(中野)。
また、資源はフローの概念であるが、資産はストックの概念であり(沼野:東北工業大学)、また資源から資産へのプロセスには@交換価値がある市場性、A外的なものも含めた市場性、B無形資産という3つのプロセスがあるのではないかとの指摘があった(後藤:早稲田大学)。
二つ目の論点としては、環境資産の市場性に対する評価に関してであり、概ね研究者サイドと現場サイドで意見の差異が見られた。すなわち、自己実現、自己アイデンティティを保全し(大原)、資源を枯渇させない(中野)ということが重要であるとの認識は共有できたが、観光の弊害のコントロールが重要であるという意見(宮田:地域環境プランニング、大原、齋藤:東京農工大学)と、まずは生業、食い扶持、生き様としての環境資産活用であるとの意見(中野、春日)に分かれた。
一方、環境資産には、市場性とは別に感動という価値(大原)があり、これは多面的同時的に存在しうるものであり、生業としての農業に支えられるものであるとの指摘があった(伊藤)。さらに、都市住民が新しい考え方で資産化をしており、地域住民と都市住民双方が認めるものが価値を持ち、またそれぞれの価値で捉えることで多様な価値が生まれつつあり、交換によって得られた価値が地域に循環することが前提として重要であり、それを担保する制度的研究が必要であるとの指摘があった(中島:熊本県立大学)。
一方、環境ストックを守っているだけでは不十分で積極的に活用しないと守れないという戦略的価値としての危機感も必要であるとの指摘も出された(山崎:神戸大学)。
地域の経済的自立を目指す地域振興という活動を、環境資産を活用する行為と捉え、その理論化を試みる取り組みはまだ緒についたばかりであり、今後の展開が期待される。